麻酔科医が足りない──この地域の病院が予定手術を延期

2026年8月19日

麻酔科医が足りない──この地域の病院が予定手術を延期

救急車のサイレンが遠のく朝、静かな手術部前の廊下に、落ち着かない空気が流れていた。掲示板には、予定表の一部に赤字の「延期」。スタッフは「ご理解を」と小声で頭を下げ、患者は深呼吸で気持ちを整える。「ここまで整えてきたのに」と、誰もが胸の内でつぶやく。

手術室が動かない日常の始まり

この数週間、地域の基幹病院で、予定手術の再調整が常態化している。鍵を握るのは、麻酔科医の不足という、構造的な問題だ。院内では「救急とがん手術を最優先に」と、優先順位の見直しが続く。

「命の切迫度で判断せざるを得ない」と、院長は渋い顔で話す。だが、その判断ので、予定手術の延期は確実に積み上がる

なぜ集まらないのか、なぜ辞めないのか

麻酔科は、見えないところで医療のを担う。周手術期の安全、術後の痛みの制御、そして合併症への即応。負荷が高いのに、評価が伝わりにくい。若い医師にとって、キャリア像が描きづらいのも悩ましい。

「当直を重ね、翌朝もフル稼働。責任は重く、余白は少ない」と、ある麻酔科医は打ち明ける。都市部への集中と、地方の空洞化が進むなか、採用は年々難化している。

予定が崩れる痛みは、暮らしに及ぶ

延期の影響は、医療現場を越えて生活に及ぶ。「会社の休暇を取り直し、家族の送迎も再調整」と、患者の一人は苦笑する。術前の食事制限減薬を、何度も繰り返す負担は小さくない。

「『来週なら大丈夫かもしれない』と言われても、また未定に戻る不安が辛い」。待つことの重さは、数字には表れない。

現場の疲弊、そして見えない安全マージン

控えの麻酔科医がいなければ、手術は始められない。代打の手配、シフトの入れ替え、集中治療室の兼務。小さな綻びが、安全のマージンを削る

疲労が蓄積すると、判断の速度確度が落ちる。だからこそ無理はしない」と、ベテランは言い切る。安全第一の姿勢揺るがないが、そのために止まる手術が増える

いま打てる暫定策

病院は、持続可能な運用へ小刻みに舵を切る。できることは多くないが、ゼロでもない

  • 他科医の周術期サポート拡充と、手術時間割の最適化
  • 院内連携ナースによる術前評価の標準化
  • 近隣病院との相互支援体制と、ケースごとの転院調整
  • 日帰り手術の適応見直しと、外来麻酔枠の増設

「一点突破では解けない。複合的に積み上げるしかない」と、運用担当は語る

人をどう育て、どう残すか

教育と定着は、最も遅効性だが、唯一の王道でもある。若手が学べる症例の確保、シミュレーションと指導の時間を守る仕組み。可視化された評価処遇、そして柔軟な働き方

「ここで働き続けたいと思える土台を整える。それが採用の最短距離」と、院長は強調する。短期の穴埋めは必要でも、長期の人づくり外せない。

地域で支える医療という約束

医療は病院だけで完結しない。自治体の交通支援、企業の休業配慮、学校のケア連携。社会の段差を低くしてこそ、延期の痛みは和らぐ。

「私たちも待てる準備をする。だから状況を早く知らせてほしい」と、患者会は提案する。情報の透明性が、不信を遠ざける。

それでも手術は、明日の命につながる

予定手術は先送りできても、人生は先送りにできない。痛みや不安を抱えた人に、確かな日時と説明を届けること。それが病院の責務であり、地域の希望でもある。

「一例ずつ丁寧に。安全を守りながら、前へ進む」。その当たり前を取り戻すために、いまは踏ん張る時だ。小さな改善を積み重ね、必ず再開へと近づく

高橋 彩乃

高橋 彩乃

日本のスポーツライターです。プロ野球、MLB、高校野球を中心に、試合の流れや選手の背景を丁寧に追っています。現場の空気感とデータの両面から、野球の魅力をわかりやすく届けることを大切にしています。